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DXの業界別事例に学ぶ実践ポイント

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、企業の成長に欠かせない重要課題となっています。業界によって進展度合いは大きく異なり、その推進方法もさまざまです。本記事では、企業のDX推進担当者に向け、業界別の最新動向と実践的な推進方法について、具体的な事例を交えながら解説します。
- DXに関連する業界特有の課題や実践方法について体系的な知識を求めている方
- 他業界のDX事例から自社への応用ポイントを探している方
- DX投資の効果を高めるための組織体制づくりや人材育成の具体的な方法論を模索している方
1.DXの基本
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、既存のビジネスモデルを根本から変革する取り組みです。企業がデジタル技術を活用して、製品やサービス、ビジネスモデルを変革し、競争力を強化することを指します。単なるデジタル化とは異なり、企業文化や組織の在り方まで含めた包括的な変革を意味します。
1-1.なぜ今DXが重要なのか
デジタル技術の急速な進化により、従来のビジネスモデルでは競争力を維持できなくなってきています。人手不足や働き方改革への対応、さらにはコロナ禍を経て、DXの重要性は一層高まっています。 業務効率化やコスト削減にとどまらず、新たな価値創造や顧客体験の向上が求められる現代において、DXは企業の競争優位性を左右する重要な要素となっています。
DXの重要性については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
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1-2.DXとデジタル化の違い
「デジタイゼーション」は紙の文書の電子化など、アナログからデジタルへの置き換えを指します。一方、「デジタライゼーション」は業務プロセスのデジタル化を意味し、「DX」はこれらを包含しつつ、ビジネスモデル自体の変革までを目指します。この違いを理解することは、効果的なDX推進において極めて重要です。
DXとデジタル化の違いについて詳しくは、こちらの記事もご覧ください。
DXとデジタル化の違いとは?取り組みに向けて理解しておきたい基本の考え方
2.業界別のDX最前線
デジタル変革の進展度合いは業界によって大きく異なり、それぞれの特性に応じた取り組みが進められています。各業界の特徴的な事例から、実践的な推進のヒントを得ることができます。
DXの事例については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
DX成功事例を大企業から中小企業まで業種別にご紹介!共通する成功のポイントとは?
2-1.製造業:データ活用による生産革新
製造現場ではIoTやAIを活用したスマートファクトリー化が進展しています。成功のポイントは、現場データの収集基盤整備から段階的に開始することです。特に、製造業においては、デジタル技術の導入と現場の知見の融合が重要な課題となっています。
■トヨタ自動車の事例:AI活用による開発プロセス革新
Microsoftと共同で開発した生成AIエージェント「O-Beya」を導入し、開発プロセスの革新を実現しています。振動や燃費など9つの専門AIエージェントを活用し、ベテランエンジニアの知識を効率的に継承・活用することで、新型車の開発スピード向上を達成しています。また、車両データの解析やソフトウェア自動アップデートにより、製品開発の効率化と品質向上も実現しています。
トヨタの事例は、AIを活用した知識継承という製造業特有の課題に対する革新的なアプローチを示しています。特に注目すべきは、専門AIエージェントを活用して暗黙知をデジタル化し、組織全体で活用可能な形に変換している点です。このアプローチは、製造業全般で課題となっているベテラン技術者の知識継承問題に対する新たな解決策を提示しています。
参照:生成AI「O-Beya」が変える! トヨタの知識継承とイノベーション|DCオキナワ
■ブリヂストンの事例:AIとIoTによるスマートファクトリー化
独自のICT/IoTシステム「BIO(Bridgestone Intelligent Office)」と「BID(Bridgestone Intelligent Device)」を開発・導入し、生産工程を刷新しています。デジタルツインによる設備管理や熟練作業のデータ化により、製造効率の向上と品質の安定化を達成しています。また、市場データと開発情報を自動的に製造工程へ反映することで、顧客ニーズに合わせた迅速な生産体制を構築しています。
参照:ブリヂストンのスマートファクトリー構想を発表|ブリヂストンニュースリリース
■コマツの事例:建機の遠隔監視システム
IoT「SMART Construction Teleoperation」を開発・導入し、建設機械の遠隔操作を実現しています。専用コックピットから建機に搭載したカメラやセンサーの情報をリアルタイムでモニタリングし、安全性の確保と作業効率の向上を達成しています。1台のコックピットから複数台の建機を操作可能とし、現場への移動コスト削減と労働生産性の向上も実現しています。
参照:コマツ、建機の遠隔操作システムを開発し外販|デジタルクロス
これらの製造業における事例は、デジタル技術の活用が単なる効率化だけでなく、新たな価値創造にもつながることを示しています。製造業DXについて詳しくは、以下の記事もご覧ください。
製造業のDXとは?必要性や課題から進め方、成功のポイント、事例まで徹底解説
2-2.小売・流通業:顧客体験の革新
小売業ではオムニチャネル化とデータ活用による顧客体験の向上が加速しています。ポイントは、顧客データの統合管理を重視し、段階的にデジタル化を進めることです。
■セブン&アイの事例:AI発注システムによる需要予測
AI発注システムを導入し、在庫管理の最適化を実現しています。AIによる需要予測の精度向上により、発注業務の効率化と在庫の適正化を達成し、欠品率を27%削減することに成功しています。さらに、複数の店舗データを統合的に分析することで、地域特性や季節変動にも対応した柔軟な発注管理を実現しています。
参照:在庫管理にAIを活用した事例|ロジカ
■ユニクロの事例:需要予測と在庫最適化
AIを活用した需要予測システムを導入し、在庫管理の最適化を実現しています。過去の販売データや天気予報、イベント情報などの分析により、商品の需要を正確に予測し、販売機会ロスを大幅に低減しています。また、オンラインストアではAI技術を活用した商品レコメンデーション機能を実装し、顧客の購買履歴データを基にパーソナライズされた商品提案を行うことで、顧客体験の向上と売上増加を達成しています。
参照:ユニクロがDXを活用し、顧客体験の向上や商品開発の効率化を実現!AI技術も活用する革新的な取り組みとは?|Aeru.me
小売業のDXについて詳しくは、以下の記事もご覧ください。
小売業のDXとは?解決すべき業界の課題と事例を紹介
2-3.金融業:デジタルサービスの拡大
フィンテックの台頭により、金融サービスのデジタル化が急速に進んでいます。セキュリティ対策を徹底しながら、顧客視点でのサービス改善を進めること不可欠です。特に、デジタルチャネルを通じた新しい顧客体験の創出が重要な課題となっています。
■ゆうちょ銀行の事例:データ分析組織の設立
2021年からデータサイエンティスト育成を開始し、18名の専門人材を育成しています。統計解析ツールや機械学習ツールを導入し、顧客データの分析を通じてサービス改善を実現しています。データドリブンな企業文化の醸成を目指し、全社的な取り組みを展開しています。
参照:【前編】ゆうちょ銀行と語る「データドリブンな企業文化の醸成」の今と未来|DOORS DX Media
■東海東京証券の事例:AI活用の営業力強化
拡張分析ツール「BrainPad VizTact」を導入し、営業担当者の行動データと人材アセスメントデータを分析しています。AIによる要因分析で顧客満足度を高める営業行動を特定し、個別化された人材育成により営業組織力の向上を実現しています。データに基づく営業プロセスの最適化で、生産性の大幅な改善に成功しています。
参照:AI の力で顧客満足度を高めるセールス行動を特定、データを基盤とした 人材育成と営業組織力向上に向けた取組みに関するお知らせ|東海東京証券株式会社/株式会社ブレインパッド/プロファイルズ株式会社
金融DXについて詳しくは、以下の記事もご覧ください。
金融DXとは?課題解決に向けた取り組み事例や注意点を解説
2-4.建設業:現場のデジタル化
建設業界では、人手不足への対応と生産性向上を目指したDXが進んでいます。成功のポイントは、現場作業の可視化とデータ活用による業務効率化です。特に、現場の安全性向上と作業効率化の両立が重要な課題となっています。
■清水建設の事例:建設現場のDX
3眼カメラ配筋検査システム「写らく」を開発・導入し、作業効率と品質を大幅に向上させています。検査時間を75%削減し、3名体制の作業を1名で可能にしました。また、非接触での検査実現により安全性も向上しています。
参照:建設DXの事例11選|導入前の課題と導入後の効果を詳しく解説|Grid
■鹿島建設の事例:現場管理システムによるDX
現場見える化統合管理システム「Field Browser®」を導入し、現場の状況をリアルタイムに把握・管理できる体制を構築しています。人員や建設機械の位置情報、気象データなどを一元管理し、遠隔での現場管理と作業計画の最適化を実現しています。
参照:建設DXの事例11選|導入前の課題と導入後の効果を詳しく解説|Grid
建設DXについて詳しくは、以下の記事もご覧ください。
建設DXで業界改革!導入のメリットと推進のポイントを解説
その他の業界のDX推進については、以下の記事をご覧ください。
物流DXとは?物流業界の課題と解決につながる活用例も解説
不動産業界におけるDXとは?推進のメリットや課題、事例を解説
農業DXとは?解決すべき現状の課題や取り組み事例について解説
3.DX推進の実践的アプローチ
成功するDX推進には、計画立案から実行まで、体系的なアプローチが不可欠です。特に重要なのは、組織の現状を正確に把握し、実現可能な目標を設定することです。
DXの進め方については、こちらの記事もご覧ください。
DX推進計画とは?企業が着実な変革にいたるための進め方とポイントを解説
3-1.現状分析と計画立案
自社のデジタル成熟度を客観的に評価することから始める必要があります。優先すべき課題を特定し、それに基づいて具体的なロードマップを作成します。投資対効果を考慮しながら、実現可能な計画を立てることが重要です。この際、外部の専門家の知見を活用することで、より効果的な計画立案が可能になります。
3-2.推進体制の整備
部門横断的なチームを編成し、明確な権限と責任を付与します。社内リソースだけでなく、必要に応じて外部パートナーとの連携体制も構築します。定期的な進捗管理と情報共有の仕組みを確立することで、効果的な推進が可能になります。特に、経営層と現場をつなぐ中間層の役割が重要となります。
3-3.人材育成の強化
デジタルスキルの評価基準を設定し、体系的な育成計画を策定します。座学だけでなく、実践的なプロジェクト経験を通じた学習機会を提供します。成功事例を組織内で共有し、ナレッジの蓄積と展開を図ることで、組織全体の能力向上を実現します。外部研修やワークショップの活用も効果的です。
DX人材の育成については、こちらの記事もご覧ください。
DX人材とは?求められる役割や必要とされる理由、人材確保の方法
DXにつながるリスキリングとは?実施のメリットや手順、企業の成功事例を紹介
DX研修とは?未来に向けた企業成長の軸となる人材を育成するために
3-4.予算計画と資金確保
DX推進には適切な予算計画が不可欠です。投資規模は企業の規模や業界、取り組みの範囲によって大きく異なりますが、システム構築費用だけでなく、人材育成や組織変革にかかるコストも考慮に入れる必要があります。
予算の詳細な検討方法については、こちらの記事もご覧ください。
DXにかかる予算はどのくらい?コストの目安と予算確保の取り組み方を解説
中小企業にとって、DX推進の資金確保は重要な課題となります。この課題に対して、国や地方自治体はさまざまな支援制度を用意しています。
活用可能な補助金や助成金について、申請手続きの具体的な方法や注意点は、こちらの記事をご覧ください。
【2024年最新】DX推進で補助金・助成金を受給するには?種類や申請手続き、注意点を解説
4.効果的な推進のポイント
DX推進を成功に導くためには、組織的な取り組みと継続的な改善が欠かせません。特に、現場の理解と協力を得ながら、段階的に変革を進めていくことが重要です。
DXの社内での進め方については、こちらの記事もご覧ください。
社内DXとは?必要な理由や進め方、成功事例について解説
4-1.組織マネジメント
チームメンバーの現状のスキルレベルを正確に把握し、適切な役割分担を行います。段階的な目標設定により、着実な成果を積み上げていきます。モチベーション管理と適切なフィードバックにより、チーム全体の成長を促進します。 効果的な組織マネジメントには、デジタルスキルの可視化と育成計画の策定が不可欠です。特に重要なのは、現場のニーズとデジタル技術の可能性を理解し、両者を橋渡しできる人材の育成です。この点において、外部のDXアドバイザーの支援を受けることで、より効果的なスキル開発と組織変革を実現できる可能性があります。
チームメンバーのスキル管理について詳しくは、こちらの記事もご覧ください。
4-2.適切なソリューションの選択
整理された課題に対して、最適なソリューションを選定します。例えば、単純な定型作業の自動化にはRPAが適していますが、取引先ごとに異なるフォーマットの請求書処理にはAIとRPAの組み合わせが効果的です。 また、社内コミュニケーションの改善といった課題は、必ずしもツール導入だけでは解決できず、業務プロセスの見直しが必要な場合もあります。投資対効果(ROI)や導入後の運用負荷も考慮し、総合的に判断することが重要です。 RPAやAIツールの選定では、以下の点を重視します。
- 導入実績とサポート体制
- 他システムとの連携性能
- カスタマイズの柔軟性
- ライセンス体系と費用対効果
- トレーニングプログラムの充実度
特に、自社の IT インフラや既存システムとの相性を十分に検証することが重要です。
4-3.効果測定とKPIの設定
RPAとAIの導入効果を正確に測定するために、以下のような指標を設定します。
定量的指標
作業時間の削減率、エラー率の低減、コスト削減額など、数値で測定可能な指標を設定します。
定性的指標
従業員の満足度、顧客サービスの品質向上など、数値化が難しい効果も評価します。
長期的な効果
業務プロセスの改善や、新しい価値創造につながる可能性も考慮に入れます。
4-4.変化管理とコミュニケーション
RPAとAIの導入は、単なる技術導入以上に、組織全体の変革を伴います。以下の点に注意を払いましょう。
- 社内への十分な説明と理解促進
- 現場からの懸念への丁寧な対応
- 成功事例の共有による機運醸成
- 継続的な改善提案の収集と反映
- 従業員のスキルアップ支援
特に、自動化による業務変革に対する不安を払拭し、新しい働き方への移行をスムーズに進めることが重要です。
4-5.専門家への相談
外部の専門家による支援を活用し、戦略的なIT活用を検討します。特に、DXアドバイザーは業務プロセスの可視化から技術選定まで、包括的な支援を提供できる専門家です。単なる技術導入に留まらず、経営戦略と整合性のとれたDX推進を実現するためにも、経験豊富なアドバイザーに相談することをお勧めします。 外部の専門家について詳しくは、下記もご覧ください。
DXアドバイザーとは? 企業に必要な理由、確保の方法、試験概要などを解説
DXコンサルとは?役割や仕事内容、依頼するメリット・デメリットを解説
5.まとめ:効果的な業務改革の実現に向けて
RPAとAIの活用は、業務改革の有効な手段の1つですが、導入前の準備と適切な支援が成功のカギとなります。技術導入を目的化せず、経営目標の達成に向けた手段として位置づけ、段階的なアプローチで進めることが重要です。経営層から現場まで、全社的な理解と協力を得ることも不可欠です。 こうした業務改革は、外部の専門家に相談することでより進めやすくなります。経験豊富な専門家のサポートを受けることで、より確実に目標達成へと近づくことができるでしょう。
サン・エム・システムは、多くの企業のDX推進を支援してきた実績があり、お客様に寄り添った実践的なアドバイスを提供しています。「なんでも相談窓口」として、IT活用の課題から人材育成まで、幅広い観点からの解決策を提案いたします。DX推進に関するお悩みがございましたら、まずはお気軽にご相談ください。
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