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情報セキュリティインシデントとは?対応手順から予防策まで管理職が押さえるべき実践ガイド

情報セキュリティインシデントとは?対応手順から予防策まで管理職が押さえるべき実践ガイド
ヘルプデスク

 情報セキュリティインシデントとは、組織の情報資産に対する脅威が顕在化し、情報の機密性、完全性、可用性のいずれかが損なわれる事象を指します。
具体的には、ランサムウェア攻撃や内部関係者による不正行為、設定ミスによる情報漏えいなど、その形態は多様化しています。

 近年の調査では、大手企業や大規模インシデントにおいて、復旧作業費用や外部専門家への委託費用、システム再構築費用、さらに業務停止に伴う機会損失などを含む対応コストが数千万円から数億円に上るケースが報告されています。
こうしたコストはインシデントの規模や企業の体制により変動しますが、深刻な被害と事業継続リスクを示す重要な指標となっています。

 本記事では、インシデント対応の具体的手順、効率的な体制構築方法、予防策の実装まで、限られたリソースで最大の効果を上げるための実践的なアプローチを解説します。

  • セキュリティ体制の構築を任された情報システム部門管理職
  • インシデント対応の効率化を目指す情シス担当者
  • リソース不足に悩む情報システム部門責任者

1.情報セキュリティインシデントの定義と影響範囲

 情報セキュリティインシデントは単なるIT障害ではありません。
企業の信頼性や事業継続性に直結する重大事象として、適切な理解と対応が求められます。

1-1.​​​​情報セキュリティインシデントとは何か

 情報セキュリティインシデントとは、組織の情報資産に対して意図的または偶発的に発生し、機密性・完全性・可用性のいずれかが侵害される事象を指します。

 不正アクセスやマルウェア感染といった外部攻撃だけでなく、従業員による誤操作や内部不正も含まれます。
 重要なのは、これらの事象が組織の情報資産に実際の影響を与えている点です。
単なる「脅威の検知」や「疑わしい兆候」はインシデント予備軍であり、実際に被害が発生または発生する可能性が高まった時点でインシデントと認定されます。

 IPAの調査によれば、国内企業が経験したセキュリティインシデントの対応コストは、業種や企業規模により大きく異なります。
中小企業の平均被害額は約73万円である一方、中堅~大手企業や大規模インシデントでは状況が一変します。
復旧作業費用、外部専門家への委託費用、システム再構築費用、業務停止による機会損失などを含めた総合的な対応コストが数千万円から数億円に達する場合があります。

参考:「2024年度中小企業等実態調査結果」速報版を公開 | プレスリリース | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

1-2.​​主なインシデントの種類と発生傾向

 現代の企業が直面するインシデントは多様化しています。
種類ごとの特徴を理解することで、優先的に対策すべき領域が見えてきます。

 ランサムウェア攻撃は依然として最大の脅威です。暗号化によるデータロックに加え、データを公開すると脅迫する二重恐喝の手口が一般化しています。
標的型攻撃BEC(ビジネスメール詐欺)では、特定企業の機密情報や金銭を狙った巧妙な手口が使われます。
経営層や取引先を装った攻撃は、見抜くことが困難です。
内部不正・誤操作は全インシデントの約3割を占めます。悪意のない操作ミスでも顧客情報の大量流出につながるケースがあります。

 クラウドサービスの利用拡大に伴い、設定ミスによる情報漏えいも顕著です。
アクセス権限の不適切な設定により、本来非公開の情報が外部から閲覧可能になる事例が報告されています。
各インシデントの特徴と対策については、以下の表をご覧ください。

インシデント種類 主な特徴 平均復旧期間 主な対策
ランサムウェア攻撃 データの暗号化、二重恐喝(データ公開の脅迫) 平均
3週間以上
定期的なバックアップ、多要素認証、従業員教育、EDR導入
標的型攻撃(APT攻撃) 特定の企業を狙った巧妙な手口、長期潜伏 数週間
~数ヶ月
メールセキュリティ強化、脅威インテリジェンス活用、定期的な侵入テスト
BEC(ビジネスメール詐欺) 経営層や取引先になりすまし、金銭詐取 即時
~数日
送金プロセスの二重確認、メール認証技術(DMARC等)、従業員訓練
内部不正・誤操作 権限の悪用や操作ミスによる情報漏えい 数日
~数週間
アクセス権限の最小化、操作ログの監視、内部監査の実施
クラウドの設定ミス アクセス権限の不適切な設定による情報公開 数時間
~数日
CSPM導入、設定レビューの自動化、クラウドセキュリティ教育
DDoS攻撃 大量アクセスによるサービス停止 数時間
~数日
DDoS対策サービス導入、CDN活用、トラフィック監視

クラウド利用やデジタル化の進展による新たなセキュリティリスクについては、次の記事もあわせてご覧ください。
「DX推進におけるセキュリティリスクとは?課題と対策のポイントを解説」

1-3.インシデントが組織に与える影響

 インシデントの影響は金銭的損失だけではありません。
組織全体に波及する多面的なダメージを考慮する必要があります。

 直接的な経済損失として、復旧作業費用、外部専門家への委託費用、システム再構築費用が発生します。
大規模インシデントでは数億円規模になることも珍しくありません。

 業務継続への影響では、基幹システム停止による生産性低下や取引先への影響が深刻です。
ECサイトが停止すれば、その間の売上は完全に失われます。

 信頼失墜によるブランド毀損は、長期的に最も大きな損失をもたらします。
顧客離れ、採用難、取引停止など、数値化しにくい影響が何年も続きます。
法的責任も無視できません。
個人情報保護法違反による行政処分、株主代表訴訟、損害賠償請求など、法務リスクも増大します。

2.効率的なインシデント対応の手順

 限られた人員で最大の効果を発揮するには、明確な対応手順と優先順位づけが不可欠です。
体系的なアプローチがインシデントの影響を最小化します。

2-1.​​​​初動対応で押さえるべき5つのステップ

 インシデント発生時の初動対応は被害拡大を防ぐ最も重要なフェーズです。
最初の1時間の判断がその後の復旧期間を大きく左右します。

< ステップ1 >
検知と報告では、異常を発見した時点で即座に報告ルートに乗せます。
通報者を責めない文化が早期発見につながります。
< ステップ2 >
初期トリアージ(重症度判定)として、影響範囲と深刻度を迅速に評価します。
全システムの停止が必要か、部分的な隔離で対応可能かを判断します。
< ステップ3 >
封じ込めでは、感染拡大や情報流出の継続を止めます。
ネットワーク切断、アカウント無効化など、即座に実行可能な措置を講じます。
< ステップ4 >
証拠保全は法的対応や原因究明に不可欠です。
ログファイル、メモリダンプ、通信記録を改変される前に確保します。
< ステップ5 >
コミュニケーション体制確立では、社内関係部門への連絡、経営層への報告、必要に応じた外部専門家の招集を行います。

2-2.インシデント対応体制の構築方法

 効果的な対応には、平時からの体制整備が前提となります。
中堅企業でも実装可能な現実的な体制を紹介します。

 CSIRT(Computer Security Incident Response Team:セキュリティインシデント対応チーム)の設置が理想ですが、専任チームを置けない場合は兼任体制でも構いません。 重要なのは役割分担の明確化です。

 インシデントコマンダー(対応責任者)は全体の統括と意思決定を担当します。
情シス部門長がこの役割を果たすことが一般的です。

 技術対応チームは、システム調査、ログ解析、復旧作業を実施します。
最低2名体制を確保し、夜間対応も可能にします。

 広報・法務チームとの連携も重要です。
対外発表の必要性、タイミングや内容は、技術部門だけで判断できません。

 外部リソースの活用も検討すべきです。
セキュリティベンダーのインシデント対応サービスやフォレンジック(デジタル鑑識)専門企業との事前契約が復旧を加速します。

2-3.復旧から再発防止までのプロセス

 インシデントの終結は、システム復旧だけでなく再発防止策の実装までを含みます。
根本原因分析では、単に「何が起きたか」だけでなく「なぜ起きたか」を追求します。
技術的な脆弱性だけでなく、運用プロセスの問題も洗い出します。

 続いて、優先順位づけされた復旧計画を立案します。
すべてを同時に復旧させる必要はありません。
業務への影響度と復旧難易度のマトリクスで判断します。

 復旧作業では段階的なアプローチが有効です。
まず最小限の機能で業務再開し、完全復旧は並行して進めます。

 再発防止策の実装には、技術的対策と人的対策の両面が必要です。
パッチ適用やアクセス制御強化と並行して、教育プログラムも見直します。

最後にインシデント対応の振り返りを実施します。
対応手順の改善点、コミュニケーションの課題、必要な追加リソースを文書化し、今後に生かします。

3.予防策と継続的な改善の仕組み​

 インシデント対応能力の向上と同時に、発生確率を下げる予防策が重要です。
限られたリソースを効果的に配分する方法を解説します。

3-1.リスクベースアプローチによる優先順位づけ

 すべてのリスクに均等に対処することは不可能です。
自社の事業特性脅威状況に基づいた優先順位づけが、効率的なセキュリティ投資のポイントとなります。
限られたリソースで最大の効果を上げるには、どこから手をつけるべきかを明確にする必要があります。
そのための有効な手法がリスク評価マトリクスです。
発生確率と影響度の両軸で脅威を分類し、高頻度・高影響のリスクから優先的に対策を実施します。

 また、すべての情報資産を同じレベルで保護する必要はありません。
たとえば顧客データベースと社内の一般文書では、要求されるセキュリティレベルが異なります。
資産の重要度分類を行い、メリハリをつけた対策を講じます。
重要資産に重点的にリソースを配分することで、効率的な防御が可能になります。

 自社の業界特性も考慮すべき重要な要素です。
業界特有の脅威に注目することで、対策の的を絞れます。
金融業界ならDDoS攻撃、製造業なら産業スパイによる技術情報窃取、小売・EC業界ではクレジットカード情報の不正取得、医療・ヘルスケア業界では電子カルテや患者情報の漏えいが主要リスクです。

 対策の実装順序も戦略的に決定します。
コスト対効果の高い対策から着手することで、早期に一定のセキュリティレベルを確保できます。
多要素認証の導入や定期的なバックアップは、比較的低コストで実装でき、幅広い脅威に対して効果を発揮します。

3-2.技術的な予防策の実装ポイント

 技術的対策は基本に忠実に、確実な実装を心がけます。
最新技術の追求よりも基本対策の徹底が重要です。

 まず押さえるべきは多層防御の考え方です。
単一の防御策に依存せず、複数の防御層を組み合わせます。
ファイアウォール、IDS/IPS(不正侵入検知・防御システム)、エンドポイント保護、アクセス制御を重ねることで、ひとつの層が突破されても次の層で防御できる体制を構築します。

 従来の境界防御モデルからの転換も検討すべきです。
ゼロトラストアーキテクチャ(境界防御に頼らず全アクセスを検証する考え方)の導入により、「社内ネットワークは安全」という前提を捨て、すべてのアクセスを検証します。
リモートワークの普及により、この考え方の重要性はいっそう高まっています。

 脆弱性管理では人的作業に頼らない仕組みが効果的です。
パッチ適用の自動化により、手動運用で発生しがちな適用漏れを防ぎます。
重要度に応じた適用スケジュールを設定し、業務への影響を最小限に抑えながら確実にセキュリティを維持します。

 膨大なログから脅威を見逃さないためには、ログ監視の自動化が不可欠です。

 SIEM(Security Information and Event Management:セキュリティ情報・イベント管理システム)ツールを活用することで、人間では処理しきれない大量のログから異常の兆候を自動的に抽出できます。
クラウド利用が進む環境では専用の対策が必要です。

 CASB(Cloud Access Security Broker:クラウドアクセスセキュリティ仲介サービス)の導入により、シャドーITの可視化と制御を実現します。
従業員が無断で利用するクラウドサービスも把握し、適切に管理できるようになります。

3-3.​​人的対策と組織文化の醸成

 技術だけではインシデントは防げません。
従業員一人ひとりのセキュリティ意識が最後の防衛線です。
年1回程度の集合研修では効果が持続しません。
継続的なセキュリティ教育として、短時間のマイクロラーニングを月次で実施することで、知識や意識の定着率が高まります。
最新の脅威情報を継続的に共有し、従業員の警戒心を維持します。

 座学だけでなく実践的な訓練も重要です。
フィッシングメール訓練では、実際の業務環境で疑似的な攻撃メールを送信し、従業員の反応を測定します。
開封率を定期的に測定し、改善を可視化することで従業員の意識向上につながります。
訓練を繰り返すことで、不審なメールを見分ける能力が着実に向上します。

 インシデントの早期発見には組織文化が大きく影響します。
インシデント報告の奨励により、小さな異変も見逃さない体制を作ります。
報告者を責める文化では、問題が隠蔽され発見が遅れます。
報告をポジティブに評価する仕組みを作ることで、心理的安全性が高まり、早期発見につながります。

 ルール設計では現場の実態を無視できません。
現場の実態に即したルールを設定することで、遵守率が向上します。
厳しすぎる制約は回避行動を生み、かえってリスクを高めます。
業務効率とセキュリティのバランスを取った現実的なポリシーが、持続可能な運用を可能にします。

 セキュリティは情シス部門だけの課題ではありません。
経営層の関与により、組織全体でセキュリティを重視する文化が根づきます。
セキュリティ投資の重要性を理解し、予算と権限を適切に配分することで、実効性のある対策が実現します。

3-4.​​外部リソースの戦略的活用

 すべてを自前で対応する時代は終わりました。 コア業務にリソースを集中させるため、外部の専門性を戦略的に活用する必要があります。

 まず検討すべきはMDR(Managed Detection and Response:マネージド型脅威検知・対応サービス)です。
24時間365日の監視を外部委託することで、自社で監視チームを維持するよりも費用対効果が高いケースが多々あります。

 定期的なセキュリティチェックも外部の目を活用します。
脆弱性診断の定期実施を外部専門家に依頼することで、内部では気づきにくい盲点を発見できます。
年2回程度の実施が推奨されます。

 万が一に備えた準備も重要です。
インシデント対応支援の事前契約により、緊急時の初動を加速できます。
レスポンスタイムが契約で保証されるため、安心感が得られます。

 より包括的なアプローチとして、情シス業務全般のアウトソーシングも選択肢です。
セキュリティ対応を含む運用業務を包括的に委託することで、IT部門が戦略的な業務に集中できます。

 情シス業務のアウトソーシングについて詳しくは、以下の記事もあわせてご覧ください。
「ITアウトソーシングとは?基礎からメリット、注意点や事例まで詳しく解説」
「中小企業のための情シス代行アウトソーシングサービス完全ガイド ~導入から活用のポイントまで~ 」

 サン・エム・システムの「情シスナビ」では、セキュリティパッチの適用や定期的なセキュリティ対応を含む情シス業務の運用整理から実行までワンストップで支援します。 限られたリソースで最大の効果を上げたいIT部門に実績豊富な専門チームが伴走します。
情シス部門のための業務効率化支援|情シスナビ

5.​​​​まとめ:持続可能なセキュリティ体制の構築へ

 情報セキュリティインシデントへの対応は、一時的な取り組みではなく継続的な改善活動です。
完璧なセキュリティは存在しません。
重要なのは、インシデント発生を前提とした準備、発生時の迅速な対応、学習による継続的改善のサイクルです。
限られた予算と人員のなかで、リスクベースの優先順位づけと外部リソースの戦略的活用が重要となります。
すべてを自前で対応しようとせず、専門性が必要な領域は適切にアウトソースすることで、IT部門が本来注力すべき戦略的業務に時間を使えます。

 情シス業務の効率化とセキュリティレベルの向上を同時に実現したい方は、ぜひ「情シスナビ」にご相談ください。 貴社の状況に合わせた最適な支援プランをご提案します。
情シス部門のための業務効率化支援|情シスナビ




【この記事を書いた人】
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